「有機溶剤の掲示って、何をどこに貼ればいいのか」「最近様式が変わったと聞いたが、うちの掲示は古くないか」——労働基準監督署の臨検で指摘されやすいポイントのひとつが、この掲示・表示義務です。

この記事では、有機溶剤中毒予防規則(有機則)で義務付けられている掲示物を一覧で整理し、近年の改正ポイントと実務チェックリストをまとめます。

有機溶剤の掲示義務——3点セットで覚える

有機溶剤業務を屋内作業場等で行う場合、事業者には大きく3種類の「見える化」義務があります。

① 注意事項等の掲示(有機則第24条)

作業中の労働者が見やすい場所に、次の事項を掲示します。

  1. 有機溶剤の人体に及ぼす作用(どんな健康影響があるか)
  2. 有機溶剤等の取扱い上の注意事項
  3. 有機溶剤による中毒が発生したときの応急処置

いわゆる「有機溶剤等使用の注意事項」の掲示板です。労働用品店・通販(ミドリ安全、モノタロウ等)で既製品が販売されていますが、古い様式のまま貼りっぱなしになっている現場が非常に多いのが実情です(後述の改正ポイント参照)。

② 区分の色分け表示(有機則第25条)

使用する有機溶剤の区分を、作業場所に色分け+文字で表示します。

区分
第1種有機溶剤等
第2種有機溶剤等
第3種有機溶剤等

印刷インキの洗浄で使う溶剤の多くは第2種=黄色表示です。

③ 保管・貯蔵場所の管理

有機溶剤を貯蔵する場所には、関係者以外の立ち入りを防ぐ設備と、蒸気を屋外に排出する設備が必要です。「有機溶剤保管場所」の標識を掲げて区画するのが一般的な運用です。

このほか、有機溶剤作業主任者の氏名と職務の掲示、作業環境測定の結果等の周知も必要です。

「掲示は廃止された?」——いいえ、変わったのは中身です

「有機溶剤の掲示は廃止された」という情報を見かけることがありますが、掲示義務そのものは廃止されていません。混同のもとは、2023年以降の化学物質規制の見直しで掲示の「内容」と「方法」が改正されたことです。

改正のポイント:

  • 掲示内容の更新: 「人体に及ぼす作用」等の記載内容が最新の知見に合わせて見直されました。改正前の古い様式の掲示板を貼り続けている場合は更新が必要です
  • 掲示方法の柔軟化: 書面の掲示に代えて、労働者が常時確認できる電子的な方法(イントラネット等)も認められるようになりました
  • 対象の拡大: 特定化学物質側では、掲示義務の対象がすべての特化物質に拡大されています(令和5年10月〜)

最新の掲示様式は、厚生労働省・各労働局が公開している資料で確認できます。掲示板を買い替える場合は「改正対応」を明記した製品を選んでください。

実務チェックリスト

  • 「有機溶剤等使用の注意事項」の掲示が改正後の内容になっているか
  • 区分の色分け表示(第2種=黄 等)が作業場所にあるか
  • 作業主任者の氏名・職務が掲示されているか
  • 保管場所に標識・立入防止・排気の措置があるか
  • SDSの内容が労働者に周知されているか(備え付け・イントラ等)
  • 掲示物が色あせ・破損していないか(読めない掲示は「無い」のと同じ扱いを受けます)

そもそも掲示が要らない現場にする、という選択肢

ここまでの義務はすべて「有機則対象の溶剤を使い続ける限り」発生します。逆にいえば、有機則非該当の洗浄剤に切り替えれば、この掲示・表示義務は一括で不要になります(作業主任者・作業環境測定・特殊健診も同様です)。

当社は印刷業界向けに、有機則非該当の植物性洗浄液への切り替えを提案しています。掲示物の更新に追われるより、掲示自体が要らない現場にする方が、担当者の負担も作業者のリスクも根本から減らせます。

よくある質問

Q. 掲示はどこに貼ればいいですか? A. 「作業中の労働者が容易に知ることができるよう、見やすい場所」です。実務上は有機溶剤業務を行う作業場所の入口付近や作業位置から見える壁面が一般的です。

Q. 既製品の掲示板を使えば大丈夫ですか? A. 改正対応済みの製品であれば問題ありません。改正前の在庫品・貼りっぱなしの旧様式は指摘の対象になり得ます。

Q. 電子掲示だけでもよいですか? A. 労働者が常時確認できる状態であれば電子的方法も認められます。ただし現場のPC環境によっては紙掲示のほうが確実です。

まとめ

  • 有機溶剤の掲示義務は「注意事項等の掲示」「色分け表示」「保管場所の管理」の3点セット
  • 掲示義務は廃止されていない。2023年以降の改正で内容・方法が変わったため、旧様式のままの現場は更新を
  • 有機則非該当の洗浄剤へ切り替えれば、掲示を含む管理義務は一括で不要になる